何処か遠くへ | THE ROMATIC WARRIOR ~ 名探偵のいる風景 ~

何処か遠くへ

 最近、御手洗は行き詰っているらしく多少鬱気味らしい。

「調子はどう?」

と投げたら

「最高にハイな気分だよ」

と捻くれて返してきた。

心配していいものか、こんなときの御手洗にどう慰める、というのも変だが

声をかければいいか悩んでしまう。お互いに落ち込んで暗い部屋で鬱々としている状態というのも

あまり考えたくは無い。

 御手洗は今アメリカの大学院で勉強している。普段はお互いのことなど考えもせず目の前のことに

多忙の日々を過ごしている。はっきり言ってしまえば忘却の彼方にあるといっても過言ではないだろう。

でもふと壁にぶち当たったり、どうにもできない場面に出くわしたりすると、彼ならどう行動するかを

まず考えてしまう。実際は御手洗は考える間もなく行動している、つまり彼には結果というものが目の前に見えているのだ。(目の前にぶら下っている真実が僕には見えてないのだと、たしか前に言われたような・・・)

私は同じものを見ても彼の倍以上の時間がかかってしまうのだから、羨ましい。

いつもなら、嫌味たっぷりな皮肉を吹っ掛けてくるのだがそういう気分ではないらしい。

とりあえず自室に篭ってばかりいるようなことを言ってた。

「どこか東北の方に行きたいなぁ」

ふいに御手洗がつぶやいた。

「東北?どこへ?温泉か?」

あまりにも急だったので意図がわからない。

「別に何処か行きたい場所があるわけじゃないんだ」

「へぇ。そうなんだ」

「僕も石岡君も行ったことが無いようなところがいいなぁ」

「うーん。じゃあ青森とかかい?僕は北海道と仙台は行ったことがあるよ」

御手洗は黙ってしばらく考えているようだった。

「でも突然だね。何でまた急にそんなこと言いだしたんだい」

僕は話の展開に付いて行けずに聞いた。

御手洗曰く、何となく日本の東北の人里離れた静かなところで何も考えずに過ごしたくなったようだ。

「石岡君とただのんびり過ごしたいだけさ」

そんなことを言われては僕としてはどう答えれば良いかわからない。でも久しぶりの旅行に御手洗と行けるのならそれは嬉しいことだった。

「じゃあ温泉があって、日本の風情を感じられるようなところだね。どこがいいかな」

と僕が考え始めたら、彼は、あとは宜しくといって電話を切った。


こうして僕らは温泉計画を立て始めたのだった。