温泉へ行こう 2 | THE ROMATIC WARRIOR ~ 名探偵のいる風景 ~

温泉へ行こう 2

 御手洗との電話を終えた後、私はもうしばらく旅館を探していたのだが、日頃の疲れと、眠気が勝り、今日は寝て明日また考えようと思いベッドに入った。

 ベッドには入ったものの、結局頭は旅行のことを考えてしまう。御手洗がそこで良いといった温泉宿は、旅館と言うよりはホテルで、温泉こそ岩風呂だが、料理はフランス料理という何だか日本の風情とはかけ離れているようなところだった。確かに安いし雰囲気は洋風で綺麗な外観なのだが。

 最初にここはどうかと聞いたときは嫌だと言ったのに、あまりにもあっさり決まってしまったので何だか気持ちが悪い。多分御手洗なりの考えがあるのだろうけど、久しぶりの旅行に対する僕の描いていた場所と現実は、何だかギャップがありすぎて迷っていた。結局その日は、なかなか寝付けず、翌日は昼頃に起きた。

しばらく布団の中でゴロゴロと往生際悪く迷った挙句、あの場所のほうが今の僕らには合っているのかもしれないと思い直し、跳ね起きてパソコンの前に座った。

 

 ところが、昨日までは問題なく開いたお目当てのサイトが開かない。


見ると、更新中という文字が画面に現れた。嫌な予感を抱きながらも、半日待っていたのだが、やっと繋がったときには、僕の思いは確信になった。

月が変わったために、一気に予約状況が変わってしまっていたのだ。私は慌てて、目当ての旅館を検索した。果たして、そこはもう満室になっていた。

しまった!という思いと同時に、僕の頭の中はパニックになった。そして一つの結論に行き着く。

「まずい・・・」

このままでは御手洗に何を言われるかわかったものではない。君はこんな事も出来なくなってしまったのかと嫌味たっぷりの週末が、刻々と迫っている。僕は心底青ざめた。こんなことなら昨日悩んだりせずにさっさと予約してしまえばよかったのだ!

その瞬間僕の脳はいつも以上の速さで回転を始め、キーボードを叩き始めた。もう必死である。とりあえずサイト内を探したがどこも満室であった。箱根を諦めればまだあるが、それでは御手洗に言い訳が出来ない。とにかく今までとは違う探し方をしなければと思い、地図や駅から箱根周辺の宿として何とか二件を探し出した。

そして僕はその旅館のHPアドレスをメールに載せ、御手洗へ送信した。

『旅館満室になってたため、代わりに他の旅館を探したので、見てみてくれ。空き室があるか今日確認してみる』


 しかし御手洗からの返事はなく、丸一日待ったあと、僕は覚悟を決めて探し出したの旅館の一方に電話してみた。すんなり予約は取れて、ぼくは安堵感と、御手洗の返事がまだ無いことに不安を覚えながらも、予約が取れたことを御手洗にメールで送っておいた。

翌日、やっと待ちに待った御手洗からの連絡が来た。

「予約できたかい」

と、話しが噛み合っていない。

もしやと思ったがいちお聞いてみた。

「え、送っただろうメールで」

「見てない」

空いた口がふさがらないとは、正にこのことだろう。この三日間、僕が必死で走り回ったというのに。

「・・・・・・君って奴は」

多少恨めしげに言ったのを少しは気にしたのか

「仕方ないじゃないか!忙しくて今やっとパソコン開いたんだもの」

と御手洗は言い訳をして不貞腐れた。

これ以上からかうと、僕のミスを追及される危険があるので、言うのは辞めて話題を変えてみた。

「箱根じゃなくて、熱海とかでも良いかなとは思ったんだ」

「でもあの辺は車が無いと不便だろう」

「御手洗が運転すればいいんじゃないか」

「・・・そういや石岡君は乗ってるのかい」

「まさか」

去年、何とか普通自動車の免許なるものをとってはみたものの、どうも車自体が怖くて乗りたくないのだ。

車に乗っても基本的に、何か起きたときは必ずパニックになる。未だにアクセルとブレーキを踏み間違える。車に乗って何事かを起こし、世間にこれ以上恥を晒すのも恐ろしいので僕は乗らないことにした。

「あーあー石岡君が車運転できたらなー」

「悪いけど遠慮しておく」

石岡君が運転するなら熱海でも良いんだけどなと御手洗は嫌味たっぷりに言っている。

しばらく押し問答をして笑い合ったあと、やはり不安になって聞いてみた。

「で、ここでいいかな。やっぱり他のところがいいかな」

そんな僕を横目で見ながら御手洗はめんどくさそうに、ソファの上で寝そべって言った。

「もう予約したんだろう?ならいいんじゃない」


こうして僕の温泉宿探しは終わった。