出発点 | THE ROMATIC WARRIOR ~ 名探偵のいる風景 ~

出発点

東京で彼を出迎えた後、僕らは横浜駅で夕食をとった。


横浜東口地下街に、飲食店が並立する場所があるのだが、そのひとつに和食を出す店がある。

その頃、小学生時代の旧友と久しぶりに会い、お勧めの店だと教えてもらったのだ。

居酒屋のようなところでもあるのだが、ランチメニューは豊富で味も良い。

とくに、土佐重というマグロの漬けがあるのだがそれが美味いのだ。

そんな話をしていたら御手洗が

「じゃあ夕飯はそこでいい」

というので、僕らはまずそこへ向かった。


さすがにランチタイムと違って、お酒が入った会社帰りの人で店は混んでいた。

あちこちで会社の憂さ話や、ほろ酔いの機嫌のいい声が飛び交っている。


僕らは小さめの二人がけのテーブルに向かい合って座った。


とりあえず、僕らは明日からの予定をどうするかと話し始めた。

「旅館は取れたんだろう?大体16時くらいに向こうへ着けばいいんだろう」

「え、そうなのか」

朝から観光するつもりでいた僕は、この発言にショックを受けた。

「せっかく行くんだから、地獄谷とか芦ノ湖とかホタルとか見たいんだけど」

「?なんだいそれ」

「なにって」

「そのなんとかダニ」

「え、知らないのか」

「知らない」

箱根といったら知らない人はいないだろうと思っていたんだが、御手洗は興味がないと

何も調べないので、妙に納得した。

「火山口だよ、硫黄とか、こうーボコボコと煮えたぎるような感じかな。僕もよくは知らないけど」

「へー」

「温泉玉子もあるよ」

「ほーぅ」


「で、明日は映画とか観たいんだ」


興味が無いことがよくわかった。


次の日、遅めに起きた僕らは馬車道にあるインターネットカフェで、映画の上映時間を調べた。

すでに一回目は始まっていたので二回目のほうを見ることにしたのだが、

このあたりだとワールドポーターズしかやっていなかったので

そのまま馬車道を歩いて行くことにした。


朝の風が気持ちよく、澄み切った青い空を見上げながら普通の話をする。

最近歩いてて見つけた小さな事とか、以前と違うものが出来たのだとか

ここからの風景が好きだとか。

御手洗は気の抜けた返事をしては眠たそうにしていたが

隣に御手洗がいるこの馬車道が懐かしくて、僕はうれしかった。


御手洗が見たいと言った映画は、

現実の世界で生きることに自信が無く、自分の世界に閉じこもり

社会や他人にかかわることを怖がっていた青年が

ある事件で助けた女性に恋をし、

その女性に振り向いてもらうために最初は色々な努力をする

いつの間にかそれが、今までの自分を変える勇気になり

きっかけになり、たくさんの人々に助けられながら

成長していく姿をコミカルに描いた映画だった


僕には、共通点の多い主人公だったので途中で

感情移入してしまうところもしばしばあり、

とても良い印象だった


箱根へ向かって、東海道線で小田原まで電車に揺られて行く。

途中、

御手洗とどの場面が心象に残ったかという話をして

僕が、

「主人公の青年が、今までの自分を変えて努力し続けたけれども

自分と彼女では住む世界が違う、自分とは釣合わないと思う気持ちを

泣きながら伝えるシーンが切なかった」

というと、御手洗は怪訝な顔をした。

「あれのどこが・・・、んーそうか?ああ」

としばらく考えていたがニヤリと笑って

「君、自分に置き換えて感情移入して観てたんだね」

あーそうかー、なるほどねー

と御手洗は僕を小馬鹿にした態度で、一人で笑っている。

じゃあ君はどうなんだと

言い当てられて悔しい僕が聞いたところ


「彼女の最後のセリフさ」


と言った。